2008年8月5日火曜日

漂流  吉村昭

実を言うと、私は吉村昭さんのファンです。どんな方かはチッとも知りませんが、彼の作品には「恋してる」くらいの勢いで惚れています。何がスキか、っていうと、そうですね…その淡々とした文章の運びや、事実をもとにした題材や、何度読み返しても飽きの来ないところ。


 吉村昭さんの作品には、沢山気に入っているものがありますが、今回はこれ。

『漂流』



 時は天明・江戸時代。主人公・長平は、今で言えば貨物船の船乗り。当時のことなので船は木造り帆を張って、お天気まかせの風まかせ。飢饉のあるところへお助け米を運んだその帰り―――烈風が吹き雨が降って来て、皆の祈りも天に届かず、船は黒潮にのって沖へと流されてしまうのである――おっと吉村節になっちゃってますよ。

 
 漂着した島は「鳥島」といって、本当に鳥、アホウドリしかいない、水もない無人島。そこで彼はどうやって12年も暮らし、生き延びたか?長平と一緒に漂着したメンバーーに先立たれ、一人で無人島に暮らした期間、彼はどんな思いで海をみつめ、空と会話し、風に祈りをはせて過ごしたのだろう。驚くべきは、その無人島に他の船乗りたちも漂着して、共同生活を営み、島からの脱出を試みるまでの精神力。私なら狂ってしまうんじゃない?自殺する勇気もないけど、自殺しちゃうかも?


 ずーっと同じメンバーで、会話も出尽くすだろうし、もちろん新しい話題もないだろう。食事だって鳥肉か磯で拾った貝か、もしくは魚、のみ。着るものもないので、潰した鳥の羽に小さな穴を開けて蓑を作ってまとい、ヒゲも髪も伸び放題…想像に難い。今みたいに救助隊がヘリを飛ばして来るワケもなく、水平線に船影が見えるを待つのみ。


 そんな彼らが船を作って故郷に帰ろう!と、計画を立てて本当にそうしてしまうのである。材は流木が来るのを待ち、釘さえも海で見つけたイカリから作り、とうとう完成、島から脱出し、多分何十回も何百回も、いや数え切れないくらい夢にみたであろう日本の地を再び踏むのである―――これって、ほとんどあり得ないくらいの話でない??


 そうして日本に帰った長平のお墓が、実在するらしい。 

 


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